今月25日付産経新聞朝刊の7頁に「カジノ構想」に対するアンケート調査結果が載っていた。 回答者は男性2630人、女性371人で、カジノ解禁の動きを知っていると答えたのは81%、カジノ合法化に賛成が69%、解禁された場合、収益の一部を震災復興に充てる案に賛成が74%だったとの事。
カジノ構想とは、日本でカジノ合法化を目指す超党派議員連盟であるカジノ議連が今度の臨時国会に提出する可能性が高い「カジノ区域整備推進法案」を指す。
賛成の理由は、「合法化して国が管理し課税対象にすべき」「海外からの観光客増加が見込める」「合法化すれば暴力団の資金源も絶つことができる。スロットマシンの設置でパチンコ店に流れる大金も自治体に方向転換できる」「財政立て直しに金を出したい人に出してもらう手段がカジノなら仕方ない」などなど。
反対の理由は、「ギャンブルでのあぶく銭でそのばしのぎをするのは危険」「パチンコでさえ経済破綻する国民がいるのにギャンブルで金儲けとは、政治家ってマフィアと同じなのか」「ギャンブルで企業が利益を上げる仕組みは暴力団こそ潤うが、市民には何の益にもならない」「震災復興は願うが、カジノの収益を使って、という部分が納得できない。カジノで借金して不幸になる人がいるかもしれないから」「麻薬と同じで治安の悪化や人身の退廃、文化度の後退などの悪影響は計り知れない」「海外のカジノの近辺には麻薬密売人や中毒者、不法滞在者などがいる。先進国でカジノがないのは日本だけといわれるが、犯罪が少ないのも日本だけではないか」など。
同じ朝刊の4頁で、若宮健氏が反対を主張し、谷岡一郎氏が賛成を主張していた。
私は1968年から1972年までの4年間香港に駐在していたが、その間日本からの顧客の要望に応えてマカオに案内した回数は数十回にも及ぶ。 とにかく日本人は賭け事が大好きな民族だ。 勿論私も例外ではない。 当時は若さもあって、顧客をほったらかしてまでブラックジャックに夢中になったものだ。 
私の記憶する限り、財布の中身を重くして帰ってきた顧客はわずか数名しかおらず、殆どの人は軽くして帰ってきている。 重くして帰ってきた人たちに共通して言えることは、ギャンブルは程々にして退け時をわきまえホテルでグッスリと睡眠をとっていることで、反対に軽くして帰ってきた人たちの共通点は、ろくに睡眠も取らず夜通しギャンブルにふけっていた事だ。
カジノにはわくわくドキドキさせる独特の雰囲気がある。 異様な熱気がある。 スロットマシーンは初心者向きだが、ルーレット、ブラックジャックバカラにはギャンブラーの匂いが付きまとう。 ビッグ&スモールにはギャンブルにちょっと慣れた人達が群がる。 どのテーブルもディーラーとの一騎打ちだ。
日頃貴重に扱う現金もプラスチックのチップに交換されるとその価値感覚が殆ど薄れておもちゃに見えてしまう所がカジノの魔力でもある。 その為、多くの人がその魔法にかかって大損してしまうことになる。
その当時、マカオには3か所しかカジノは存在しなかったが、その道の通から聞いた話では、各カジノにはディーラー養成専門訓練所があって、ディーラーの卵達はそこで毎日猛特訓をしてるのだそうだ。 そして、絶対的技術を身に着けた者だけがカジノでディーラーを任されるらしい。 絶対的技術とは、その人の話によれば、例えばルーレットの場合、100回玉を廻して100回ともゼロに入れられる技術を指すらしい。 ということは、ディーラーはルーレット盤上の顧客の賭け具合を見て、自分に適度に損のない数字に入れればトータル的に絶対損はしないことになる。 また、適当に儲けさせておいて、顧客が調子に乗ってどっさり賭けてきたらゼロに入れて総取りも自在にできる。
ビッグ&スモールも、ブラックジャックも然り。 そういえば、ブラックジャックで若手のディーラーがプロ級のギャンブラーと対峙して負け続けた時、いたたまれなくなって壮年のディーラーと交代した場面も目撃している。 勝負はディーラーにとっても死活問題なのだ。
マカオでの日本人の悲喜劇は沢山聞いている。 その当時日本国のパスポートはHK$500の担保価値があったらしく、すってんてんになった観光客がパスポートを担保にして借り、その金もすって無一文になり、マカオの日本領事館に駆け込んで助けを乞う人間が毎月数名はいたと聞くが、もしかしたら今でもそんな人間が後を絶たないでいるかもしれない。
いまから十数年前に顧客と訪ねたマカオは大変な様変わりで、カジノも数十件に増えていた。 しかし、現地の新聞には、香港、マカオ、大陸のマフィア同士の縄張り争いが激化して白昼にも拘らず銃撃戦が繰り返され血みどろになって転がっている死体のカラー写真が載っていた。 聞くところにひょるとそれが日常茶飯事に起きているという。 だが、観光客が減るのを恐れたマカオ当局は日本の旅行社にはこうした情報を極力伏せていたようだ。 とは言え、カジノは昔以上に熱気むんむんで大変な盛況ぶりだったが、私はなぜか昔ほどの意欲は湧かなかった。 
大王製紙の三代目会長が100億円もの大金をカジノにつぎ込んだようだが、本人曰く、1億円が1万円にしか感じなかった、とは言い得て妙である。 この感覚はカジノの魔力に毒された人間にしか解らないだろう。 浜田幸一元議員のラスベガス事件も然りである。
私はカジノ構想には可もなし不可もなしである。 年金暮らしの老人が年金が入るとパチンコ店に直行する世の中だ。 カジノができれば大勢が集まるだろう。 そして、今までに有り得なかったいろいろな人間ドラマが展開されるだろう。 その時はたして、どれだけの人がどれだけ自分を制御できるだろうか。 どんなに負けても決して他人のせいにしない胆を持っている人間がどのくらいいるだろうか。
いずれにしろ、カジノ議連は起こりうるメリットとデメリットを徹底検証すべきである。