久々にダイヤモンドの話がしたくなった。 切っ掛けは、NHK衛星第一で再放送されたインドのダイヤモンド事情を見たからだ。 

内容は2000以上もの加工場(研磨工場)があるグジラート州から世界有数の国際取引所があるマハラシュトラ州のムンバイ(ボンベイ)を往復する「アンガリア」と呼ばれるダイヤ運搬人のドキュメンタリーだった。

アンガリアとは「信頼できる人」と言う意味らしい。 彼らは依頼人から受け取ったパーセル(袋)の中身がどんな商品でどれだけの価値があるものか全く知らず、知ろうともしないでただひたすら受取人に無事渡すことに専心する飛脚みたいなものだ。

ただ、ダイヤモンドは高価なので、道中誰かに狙われる危険が常時伴う。 その為に、服装は目立たない普段着で常に群集に紛れて移動する。 それでも強盗団にマークされて被害に遭うケースもたまにあるそうだ。 私の知る限り、被害額は被害に遭った本人が全額弁償しなければならない掟になっている筈だ。 

報酬は、危険が伴う割にはたいした金額ではないはずだ。 それでも彼らはダイヤ運搬の仕事を続ける。 そして愚直なまでにそれを繰り返している。 ダイヤモンド加工業者にとっては正に「信頼できる人」たちなのだろう。 

だが、この「信頼できる人」という言葉ほどインド人に当てはまらない言葉は他にないと私はつくづく思う。


私がビジネスでインド人と初めて関りを持ったのは今からほぼ37年前の1973年1月だった。 それから引退するまでの35年もの間、ビジネスでこれほど手を焼いた民族はいない。 世界のタフ商人と称されるユダヤ人も中国人も彼らほどではない。

古い付き合いだから大丈夫だろうと、一寸でも隙を見せれば、間髪おかず隙間に土足で入り込んでくる。 ずうずうしさとしつこさに於いても天下一品だ。 仕事でもプライベートでも何でも、「騙されるほうが悪い、騙されるのは馬鹿」の精神が商売の根底にあるから始末が悪い。  

騙されたと分って怒っても、彼らは平然として哲学的弁明をとうとうと繰り返すだけで、決して怒らない。 結局最後は根負けしてしまうのが常のパターンだ。

ここ十数年の間に世界のダイヤモンド業界の勢力図は大きく変化した。 とにかくインド人のパワーが猛烈な勢いで増大しているのだ。 今まで業界を牛耳ってきたユダヤ人がどんどん隅に追いやられてしまった。 そして今、日本のダイヤモンド取引でどんなことが起こっているのか。

先日、某社の社長からとんでもない話を聞かされた。 最近の話らしいが、彼と長年取引していて私も古くからよく知っているインド人の業者が、「会」でダイヤを特別安く手に入れたので是非社長に買って欲しい、とその商品持参したらしい。 サイズが大小入り混じった数十カラットのロットで、その中の目ぼしいところ5〜6個を確認した所、品質もまあまあ、ロット値段も一般市場価格よりかなり安いと感じたので、即買い付けたらしい。

所が後でそのロットを一個一個サイズ別、品質別に分別した所、何と複数個の偽ダイヤが混入していたことが判明。 すぐにインド人を呼びつけて、偽ダイヤの分だけ返品した由。 持参する前に自分で確認しなかったのかと問い質した所、「会」で買い付けたままの状態で持参したとの事だったが真相は闇の中だ。 その後インド人が「会」に厳重抗議したかどうかは知らないが、もし「会」でそのようなロットが実際に取引されていたとしたら、これは「会」の存亡にも係わる由々しき事態だ。 

インド人が「会」で買い付けたものを、中身も調べずに、アンガリアの如く、そのまま顧客に売りつける所業は、ダイヤ取り扱い業者とはとても言えない。 しかし、そんなインド人が世界のダイヤモンド市場を跋扈しているのが現状だ。

でも、だからと言ってインド人を嫌ったり怖がったりするのは的が外れている。 その前に、先ず自分自身がダイヤモンドビジネスのエキスパートとして恥じない鑑識眼を持つことが先だろう。