死者が出るという最悪事態は免れたが、密かに恐れていたことがとうとう現実となってしまった。ここ数年、私は機会あるごとに色々な人に色々な場所で中国食品の危険性を説き続けて来た。
「あんたの会社でも中国産品を輸入してんでしょ。そんな事言ってていいの?」と指摘され、「わが社の扱い品に関しては、水際で万全を期して農薬チェックを行っていて、検査機関の許可を得た物ばかりを輸入しているので一応安全」と苦し紛れの釈明をした時もあるが、取り扱い品は乾燥穀物だけで加工食品や生鮮食品は含まれていないので大丈夫だと信じたい。
大分前に、中国産のねぎが大量に輸入され日本のねぎ農家に大打撃を与えた時があったが、仕掛け人は在日中国人経営者だった。しかし、日本のマスコミが現地に飛び取材を行った栽培畑は、一面農薬まみれであったことが判明し、大々的に報道されたので日本の消費者はその時点で、ねぎのみならず中国産の野菜は農薬まみれで危険である、とおおっぴらに教えられていた筈である。
勿論中国側も大口顧客である日本の消費者をないがしろにしたら大打撃を蒙るので当局も規制も取り締まりも厳しくしてはいるが、100%取り締まるのは不可能である。そして僅か一握りの違反者が正道を歩む大多数の人々に大混乱を生じさせている。
しかし、此度の中国製餃子の事件は同じ農薬被害でも、野菜を食することで微量の農薬を摂取する間接被害ではなく、農薬そのものが食べ物に付着していたが為に起きた直接被害である。それだけに謎が謎を呼び、日本人を狙った無差別テロ説まで飛び出している。
報道によれば、中国の農民は知識が乏しく農薬の扱いにはあまり気を使わないとの事、その為か中国国内でも農薬中毒事故があちこちで頻発しているらしい。例えば2004年3月31日と4月4日に相次いで「メタミドホス」中毒事件が発生し12人のうち2人が死亡したとの事だが、原因はなんと、この農薬を調味料として使ったが為だったそうな。今年の1月も広東省でスープを飲んだ農民4人が中毒になり2人は重態となったが、原因はスープに入れた木の実で数日前に同農薬で消毒されたばかりだったらしい。
私の物置にも数種類の殺虫剤が置いてあるが、庭木があったり家庭菜園を楽しんでいる家庭では殺虫剤は必需品だ。野菜には色々な虫がつく。だから、野菜に向かって噴霧する。噴霧しながら食べるタイミングを考えてしまう。虫に毒なら人間様にだって毒であることに変わりはないからだ。噴霧していると、その農薬の臭いが鼻につく。
此度の事件でほんのちょっぴり安心したのは、被害者が臭いや食べてから味がオカシイと感じ、咄嗟に吐き出し大急ぎでうがいをしたりしていた点だ。人間も動物も自分の体に害をもたらすのではないかと感じたときは本能的に拒否反応を起こすものだ。これは生き物の持って生まれた感性だが、その感性は安穏とした暮らしを続けているとどんどん鈍ってくるものだ。溺愛されているペット動物が野生の本能をほぼ失っているのと同じ現象だ。
此度の事件の原因は私の感では、よしんば人的であっても故意とは縁遠いものと思っている。おそらく当事者も自分が張本人だとまだ気がついていなのではなかろうか。もし、後に知らされたときはおそらく気が動転してパニックを起こすに違いない。しかし、もし経営者に対する報復や日本人に対するテロが目的だったとしたら、厳罰に処すべきである。何しろ、世界中のテロリストに恐ろしいヒントを与えてしまったのだから。

自給率38%の日本は食糧輸入大国である。だが、金さえ出せば何処の国も何でも売ってくれる、と思うのはもう妄想に過ぎなくなっていることをそろそろ日本人は認識したほうがいい。世界各国で食糧難時代が到来する。各国もこれからもずっと日本の希望通りのものを希望するだけ売ってくれなくなるだろう。となると危ないものも色々入ってくると思われるが、日本人は総体的に自己防衛本能が鈍っているように思えてならない。何でもかんでも他人や国の責任にしたがる習癖があるが、死んでしまったら何もならない。私も今回の事件を我が身に起きた事件としてシミュレーションし、今後は自己防衛を強化するためにも持って生まれた動物本能を改めて磨こうと気を引き締めている。