食の安全に関するニュースが氾濫する昨今だが、どのメディアも消費者の「自己責任」については多くを語ろうとしない。その最たる例がこんにゃくゼリーの喉つまり事故だ。
マンナンライフの「蒟蒻畑」が誕生したのは、こんにゃくの消費量が年々減少しているのを憂慮していた群馬県の蒟蒻芋生産業者が、何とか回復させる妙案は無いものかと頭を悩ませていた頃である。全く新しいタイプのコンニャク商品として「蒟蒻畑」が生まれる迄には試行錯誤の連続だったようだ。決して生半可な妥協を許さなかった当時の鶴田社長のOKサインを得るまでに技術陣が歯を食いしばって必死に頑張った末に完成した「秀逸品」と聞いている。
しかし、当初は業界の誰もが邪道品だとソッポをむいて相手にされなかった為、止む無く細々と生産しながら沿道でマイカー族を相手に販売していたらしい。所が、その美味しさに加え、物珍しさも手伝い、またダイエットブームにも乗り、そして難しくて読めそうも無い漢字の評判も相まって一気に大ブレークしたようだ。
マンナンライフが「蒟蒻畑」を大増産しているのを嗅ぎつけて新しく参入してきた大小業者は東証一部上場企業も含めて国内で50社をゆうに超え、台湾や中国でも、続々と生産され始めた。そして彼らは、原料の蒟蒻粉もフルーツ味も容器もいい加減なものまね感覚で、ただ儲かればいいと言った消費者無視の劣悪商品を乱造し、どんどん国外に輸出し、そして乱売合戦を繰り返して市場を混乱させその挙句に海外のあちこちで喉つまり事故を誘発させてしまった。
蒟蒻畑」が死亡事故対象品となったのは今回が初めてだ。喉つまり事故に最大の神経を配り、容器の変更や注意項目にも味同様に改良を重ねてきたマナンライフにとっては計り知れないほど大きなショックであろう。「悪貨は良貨を駆逐する」と言うが、危険な粗悪類似品が氾濫する中で必死に王道を貫いてきた断固たる姿勢に敬意を表していだけに、此度の事件は私にとっても信じられない思いでいっぱいだ。
事件はどのようにして起こったか詳しくは解らないが、新聞によると、祖母が凍らせたポーションタイプのマンゴー味を1歳9ヶ月の幼児に与えたところ、喉にひっかかってしまったので救急車で病院に運んだが窒息死してしまった、との事。
ポーションタイプのサイズは横4cmx縦5cmx厚さ2cm。大人でもよほど大きな喉でなければ通すことが出来ない大きさだ。祖母はそんな大きな氷の塊を2歳にも満たない幼児に与えたことになる。何でもしゃぶりたがる赤ちゃんの周りには、赤ちゃんに危なそうな物は置かないよう徹底するのが赤ちゃんを取り巻く人達の最低限の心配りであるはずだ。まだまだ赤ちゃんの域を脱していない1歳9ヶ月の幼児に祖母はこんな大きな氷の塊を与えているのだ。マスコミは、祖母の心情をおもんばかってかそのサイズのことを一切表に出さない。サイズを示せば、私と同じような反応が多く出ると思ったろうし、コンニャクゼリーを悪者にしておけば特に己に害は及ばないと判断しての処置だろう。
消費者団体や主婦連がヒステリックにコンニャクゼリーを悪の権化のように評し、即刻製造販売を停止すべきと提唱しているが、あまりにも軽薄すぎる。どんな事件が起ころうと消費者は常に100%正しい、どんなケースであれ消費者側に責任は一切無い、という妄想から早く覚めて欲しいものだ。
野田消費者行政担当相はこうした妄想者に責められて止む無く「注意事項を大きくするよう」指示していたが、どんなに大きく注意事項を書いても読まない人は読まないのでこんな指示は意味が無い。コンニャク製品及び原料の輸入、製造、販売を禁止している理由など、諸外国の措置を調査中との事だが、諸外国が禁止している理由は単純明快だ。自国産品の輸入製造販売を何だかんだと難癖つけて停止している日本に対してリベンジの一環として、自国では生産も製造もしていない、なんら国内では影響のない産物なので、事故を最大の言いがかりにして禁止しているに過ぎないのだ。
今後、日本の食品が益々海外でブームになってきているので、コンニャクもいずれ解禁になるだろうと思われる。海外では今でも「蒟蒻畑」の熱烈なフアンが大勢いるし、色々な料理にもつかわれるからだ。此度のイギリス滞在中、日本食材やアジア各国の食材店では堂々と台湾製「しらたき」が並べられて売られていた。
日本にも、「蒟蒻畑」の製造中止を残念がる熱烈フアンが大勢いて、彼らは何故コンニャクゼリーだけが悪者なの!と叫んでいる。そして彼らの中には、それじゃあ毎日のように人が怪我したり死んだりしてるのにどうして自動車を作らせたり走らせたりするの!とか一寸飛躍した抗議をしている人がいるが、冷静になって他の食べ物での事故発生と比較をしてみると以下のようだ。

2006年1月1日より1年間の喉つまり事故の発生件数(厚労省調べ)
         消防調査   救命救急センター
もち        77      99
ごはん       61      28
パン        47      43
あめ        22       6
すし        22      19
おかゆ       11      11
だんご        8      15
流動食        8      13
カップ入りゼリー   8       3
(コンニャクゼリー2件を含む)
ゼリー        4
しらたき       4

一年間でこれだけの事故が発生しているのにコンニャクゼリーを除くこちらの食べ物に対しては消費者団体からも主婦連からも何ら抗議の声が聞こえてこない。こんなに多くの人が喉つまり事故を起こしても、自分たちが毎日食べる必要がある食べ物なので製造も販売も中止されたら困るということなのだろうか。どう考えても腑に落ちない。