今日のNHK朝のニュースで、最近若者がカード詐欺被害に遭うケースが増えているという報道があった。
本家は「毛利」と名乗る人物で、キャッシュカードを新しく作らせ、それを1枚当り5万円で買うらしい。
これはいいこづかい稼ぎになると、大学のキャンパスなどの口コミで仲間同士で広がり多くの若者が参入した所、一円も借りていないのに或る日突然消費者金融から多額の請求書が舞い込んだ、という事らしい。
本家が忽然と姿をくらました所で、詐欺に遭ったと気がついても後の祭り。 消費者金融側は断固取立て姿勢を崩していないという。
おれおれ詐欺が後を絶たず、また新手の詐欺がドンドン横行しているが、基本をしっかりと踏まえれば決して騙されることはないはずだ。 私も三十年ほど前に面白い経験をした。 それを宝飾業界紙(日本貴金属時計新聞第1190号、1985年8月)に載せたのを思い出し、古いファイルを引っ張り出して見つけたので、ここでもう一度以下に記してみたい。 

6年前のことであろうか、当時知人であったM社長から、大変有意義な経済懇談会がNホテルで開かれるので是非出席願いたいとの電話が入った。 概要を聞いても、兎に角儲かる話だからと詳しくは話してくれない。
心中ひらめくものがあったので最初は断ったが日頃の冒険心が頭をもたげ、カラクリを知る良い機会と思い、出席してみることにした。
ホテルのロビーで待ち合わせた後、会場に出向いた。 出入り口は一つ。 数名のガードマンが目を光らせている。 受付で身分を明らかにし、住所、氏名を記入して会場内に入った。 受付嬢の美しさが印象的である。
会場の席はもう九分通り埋まっている。 かれこれ二百名位であろうか。 六割は中年女性であり、初老の男女も目立つ。 会場内にも点々とガードマンが立っている。 M社長と横に並んで座ったが、開催までの十数分間沈思黙考を続けた。 予期した通り、この集いはまぎれも無く頼母子講の会合と確信したからである。
幹部の話がひとしきり続いた後、演出者による数々の成功談が続く。 聴衆を魅了するクライマックスである。 締めくくりは入会方法等の説明となる。
馬鹿馬鹿しくなって途中退場しようとした所ガードマンに出口を塞がれてしまった。 トイレだよとの言い逃れに丁重に導いてくれたのは良いが、徹底監視のままである。 結局最後まで聞かされる破目になった。
二時間ほどで閉会となった。 この間に中座したのは筆者ひとりのようであったが、どやらその時点でマークされてしまったらしい。
閉会の挨拶は、次のドラマが始まる合図でもあった。 同伴者は各々連れてきた人と対話を始める。 釣り逃がし防止の為に万全の体勢を整え入会を迫る。 筆者に対してはM社長の他に一名助っ人がついた。 問答を詳しく記したいが稿に限りがあるので要旨だけでご容赦願いたい。
先方は兎に角こんな儲かる話は滅多に無いとか、友達の顔を潰す気かとか、儲けさせようとする誠意を解って欲しいとか、弁舌にジェスチャー入りで説得を繰り返す。 難航不落とみるや一人また一人と加勢が入り、とうとう六人に取り囲まれるに至った。
筆者が申し開いた拒否理由は簡単。 一に、設ける手段が気に入らぬ、二に、入会しても次に勧めたい人が誰一人いないので投資分は百パーセント損する、の二点である。
必死に食い下がる面々に申し渡した事は「儲かる儲かるとあたかも親切に言っている様だが本音は自分の投資分を早く取り戻し願わくば更に設けようと、自分の為にのみ必死になっているに過ぎない。 哀れだよ君たちは。 M社長、投資分は勉強代だときっぱり諦め二度と知人をこのような場所に誘わないことが今後の身の為ですよ」と言い残し、断りきれずに入会手続きをしている人々をしり目にホテルを後にした。
M社長は追ってきて丁重に謝し、更に、入会した経緯を取引先の社長に勧められて断りきれなかったと弁明していたが、想えば六十を過ぎた白髪の立派な好感の持てる紳士であった。
型は違えど、今、世間ではベルギーダイヤモンド商法が話題になっている。 多分勧誘は似たような雰囲気の中で行われたのではないかと推察するが、双方の共通点は、入会した時点で自動的に加害者(といえるかどうかも疑問だが)側に組みする運命にあるという事実である。 となると被害者が果たして存在するのかどうかも甚だ怪しくなる。 被害者意識を持つことが出来るのは、半強制的に、或いは脅かされて買わされた人々に限定されよう。 その場合立証出来るものが存在すれば罪が成立する。 加害者は勿論企業であり立ち会った一般の会員は共犯ということになる。
冷静に考えてみると、ベルギーダイヤモンド商法は違法といえない部分が多分にある。 例えば販売価格は仕入れの何倍以内と定められている訳ではない。 従って高く買わされたといって被害者ぶるのは見当外れである。 只、明白なのは、このたぐいの商売は古来一時的な成功はあっても長くは絶対続かないということである。
日本人は本当に善良な人が多い。 それだけに騙されやすい。 また解っていても断固拒否することが出来ない。 このような人々を一時的な暴利を得るために騙すような輩は、天につばする如く必ず己の身に禍が生ずるとみてよかろう。
気をつけよう、うまい話と甘い罠。

私が出席した会合は、その頃猛威を振るった「天下一家の会」である。 被害者が数百万人、被害額も巨大化した事件だったが中高年の方なら覚えておいでだろう。 金取引では「豊田商事」事件がある。 首謀者は被害者の一人に「天誅だ!」と叫ばれて日本刀で惨殺されている。 
詐欺被害に遭わない為には、兎に角冷静になって、基本、常識を踏まえながら物事を判断する事だ。 そうすれば、例えば、赤の他人に預金通帳と印鑑なら絶対渡さないのに、カードとなると安易に渡して暗証番号まで喋ってしまう、といったような事態は起こらないはずだ。