いつ以来だろうか。 本当に久しぶりに体が硬直し、興奮し、感動した。 PCに向かってタイプしている今も自分が不思議な空間に浮いているような錯覚を覚える。
「ザ・ムーン」。 原題は「In the SHADOW of the MOON」
1961年、ケネデイ大統領は、1960年代中に人間を月に着陸させ、無事に地球に帰還させる、と高らかに宣言し「アポロ宇宙計画」を発表した。 誠に残念ながらケネデイ大統領はそれから2年後にダラスで凶弾に倒れた為に自分の目で確かめることが出来なかったが、1968年アポ11号で旅だったアームストロング船長がついに月面の静かの海地点に人類初の第一歩を記し、そして無事地球に帰還した。
それから1972年のアポロ17号打ち上げで計画は完了するが、その間に月面着陸を成し遂げたのは僅か12名。そしてそれから40年も経た今も、彼らの他に誰も到達していない。
この映画は、アポロパイロットのインタビューとNASAが秘蔵していた貴重な記録フイルムとで構成され、コンピューターグラフィックなど一切使われていない。 それだけにものすごい迫力がある。
発射準備が整い、いつもなら砂糖に群がる蟻のように大勢の人達が動き回っていた発射台周辺には誰もいない。 そんな静寂の中に飛行士3人がバスで到着し、そしてカプセル内に乗り込む。 彼らを乗せてきたバスが遠ざかり、秒読みが始まる。 ゼロ、の声と共に耳をつんざくような轟音が何キロ四方にも響き渡り、ものすごい噴射と共にゆっくりと上昇し始める。 噴射の部分がスクリーン一杯に轟音と共に映し出され、そしてやがて速力を増してドンドンドンドン上昇していく。 息をつくのも忘れて観とれてしまう。
それから燃料タンクを切り離し大気圏を脱してから地球を周回し、体制を整えてからいよいよ月に向かって40時間の宇宙の旅が始まる。 
宇宙空間での映像はすべてアポロに設置されたカメラを通してNASAが受信したもののようだが、その映像を見ていると正に自分がアポロのパイロットになっている気分で、宇宙空間にポ〜ンと放り出されてしまっている、不気味に孤独な自分、ちっぽけな自分、を味わってしまう。
月に近づくにつれ、表面のクレーターが大きくなる。 そして、月の表面から上ってくる小さく青白い地球の何と美しく、そして頼りないことか。
あの地球の何処に私は存在してるのか・・・・・・・。
月面から数キロの上空で静止し、2人が着陸船に乗り込む。 アームストロング船長とオルドリン着陸船パイロットだ。 司令船パイロットのコリンズは船内に残って着陸船と連絡を取り合う。 そしてついに着陸、ハッチから出た宇宙服姿のアームストロング船長がゆっくりとはしごを降り、静かに大地を踏む。 
「一人の人間には小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」
世界中の人々がこの快挙に酔いしれた。 1969年7月21日の出来事だった。
インタビューの中でオルドリン氏は言う。 「着陸は成功したが、果たしてアポロまで無事に戻れるかが心配だった。 ニクソン大統領は、2名が月面から戻れなかった場合のTV用弔辞まで用意していた」
冷静沈着な連携プレーが着陸船の月面からの離陸と司令船とのドッキングを成功させ、2名は無事ハッチに戻ることが出来た。
正に緊張のシーンの連続だ。 繰り返すが、決してCGではない。 すべて実像だ。
そしてカプセルは地球に向かって帰路に着く。 そのスピードは確か時速4万6千キロと説明していたような気がする。 ものすごいスピードだ。
そして、大気圏突入後、そんなスピードの中で3つの落下傘が開くタイミングを見計らう。 無事海に着水し、カプセルは回収され、3名が中から現れる。 NASAでは関係者全員が立ち上がって拍手し、抱きあい、歓喜の涙を流す。 偉業を成し遂げた達成感と安堵感と誇りと感激とごちゃごちゃに入り混じった感情のあらわれだ。
しかし、この成功の陰には何度も失敗が繰り返され何人もの尊い命が犠牲になった事も前半の映像で紹介されている。 打ち上げ直後にロケットが大爆発を起こして炎上する映像や訓練中に爆発したカプセル内の映像には胸が詰まってしまう。
宇宙飛行士は、殆どが帰還した後に人生観が大きく変わると言われているが、彼らのインタビューに於ける言葉は、一つ一つ心にしみるものがあり、心から敬服せずにはいられない。
終了後、照明が点くまで席から立ち上がれなかった。 この映画を製作して下さった関係者全員に心から感謝したい気持ちで一杯だったからだ。 
こんな珠玉の記録映画にお目にかかることなど滅多に出来ない。 世界中の一人でも多くの方々に是非見て欲しいと切に思う。